なぜ人はミスを隠し、ミスを非難するのか「失敗の科学」②
「失敗の科学」
哲学者カール・ポパー「真の無知とは、知識の欠如ではない。学習の拒絶である」
哲学者ブライアン・マギー「自分の考えや行動が間違っていると指摘されるほどありがたいものはない。そのおかげで、間違いが大きければ大きいほど大きな進歩を遂げられるのだから」
完璧主義にならないために
・私たちは世界を「単純化」しすぎてしまう
→「どうせ答えはもうわかっているんだから、わざわざ試す必要なんてない」と考える
・完璧主義に陥る要因
1.ひたすら考えねけば、最適解を得られるという誤解
→自分の仮説を実社会で検証しなくなる
2.失敗への恐怖
→失敗をなくそうと頭で考え続け、気づけばもう手遅れの状態になっている
→クローズド・ループ現象
・完璧主義者の罠にはまらないためには
質よりとにかく量を重視
例:「すばらしいミュージシャンになるために、まずひどい曲をたくさん演奏しよう」
「強いテニスプレイヤーになるために、まずたくさん試合に負けよう」
・実際に検証しデータを分析して初めて、改善が必要な点が明らかになる
失敗から学ぶための手法
→最初から完成形を目指さず、検証に必要な機能を「最低限実装した商品」の状態で、フィードバックを得ることから始める
→そして、フィードバックから改善点を見つける
2.RCT(ランダム化比較試験)
→○○をしなかったら、起こっていたかもしれないこと(反事実)を検証する
例:「失敗の科学」①で紹介した瀉血において
まず、重症患者が20人いるとする。10人は瀉血療法を受ける(介入群)。もう10人は瀉血療法を受けない(対照群)。
介入群→10人中5人回復
対照群→10人中7人回復
→介入群だけを見ると瀉血は効果があるように見えるが、対照群と比較すると回復した人数は少ない。人間の体には治癒能力が備わっていて、何も治療しなくても事前に回復することがある。
・反事実は目に見えない
例:商品のパッケージを変えたから売り上げが伸びた
→パッケージが原因ではなく別の売り上げアップの要因があるかもしれない
・人は自分が深く信じていたことを否定する証拠を突きつけられると、その人を攻撃することもある
3.マージナル・ゲイン(小さな改善)
→小さな仮説を一つずつ丁寧に検証し、小さな改善を繰り返した
例:ホットドッグ早食い選手権で世界記録を破った小林尊
検証1.ホットドッグを半分に割って食べる→口の中で余裕ができて咀嚼しやすい
検証2.ソーセージを先に食べる→パンがモサモサしててこずる
検証3.パンを水につける(水の温度を変える、水に植物油を混ぜる)
→当時の早食い世界記録12分間で25.125本
→小林尊の記録はなんと50本
4.事前検死
→あらかじめプロジェクトが失敗したと想定して「なぜうまくいかなかったか」を事前検証する
→失敗した理由が出てこなくなるまで行う
非難に潜む重大な罠
・自分の失敗を隠す「外因」は非難というプレッシャーである
→ミスが起こった時「担当者の不注意だ!」「怠慢だ」と真っ先に非難が始まる環境では誰もが失敗を隠したくなる
→重要なのは問題を深く探り何が起こったのかを突き止めることである
→この姿勢があれば、オープンで誠実な組織文化を構築でき、成長の勢いが増す
・責任を課すことと不当に非難することは全く別である
例:ある看護チームの看護師長は看護師から「権威的な存在」としてみられ厳しい規律のもと手厳しく問いただしていた
→看護師「ミスをしたら有罪なんです」「ここでは容赦はありません。厳重な処罰が待っています」
→看護師長はスタッフをうまく管理していると自負していた
→しかしこのチームは看護師からミスの報告がほぼなかった
→しかも実際には他のチームより多くのミスを犯していた
・隠蔽体質の組織
→ミスが減るようミスに対する罰則を強化する
→ミスの報告が減る
→ミスが埋もれていく
→ミスから学ぶ機会が減り、同じミスが繰り返される
→さらに非難が強まり、隠蔽体質が強化される
・ミスの適切な分析を伴わない非難は、組織に最も頻繁にみられ、かつ最も危険な行為である
まず何より重要なのは、失敗に対する考え方に革命を起こすことだ